短編怪談 #52 「少女が見た霊」
ある病院の先生から聞いた話。
その病院はもう50年ぐらい前からあるのですが、
やはりその分だけ奇怪な話も多くあるようです。
僕が聞いたのはある女の子の話。
20年ぐらい前のことです。
その女の子は当時10歳。
事故で骨折をして、歩けるようになるまで
入院することになったそうです。
特に体調が悪いとかではないため、
暇で暇で遊びたくて仕方なかったそうです。
家族や友達がお見舞いに来ると嬉しいのだけど、
帰った途端に寂しくなってしまう。
そこで入院2日目の夜、
少し出歩いてみることにしました。
実は彼女、怖い話が大好きで
実際の病院を歩いてみたいなぁと思っていたそうで、
ワクワクしながら病室の外に出ました。
そこは真っ暗闇の世界。
病室から持ってきた非常用のライトを片手に、
探検します。すると、
「誰ですか！」と男の人の声が聞こえて来ました。
ヤバイ！誰かに見つかった！と思い、
急いで反対方向に向かって早歩きしました。
近くの窪みに隠れて待っていると、
なぜか、コツコツとヒールで歩くような音が
聞こえてきました。
さっき聞こえたのは男性の声のはず…
そのまま耳を澄ましてみると、
どんどん近づいてくるのが分かりました。
「ヤバイ…見つかる…」
息を殺します。
コツコツ…コツコツ…
その音はすぐ目の前まで来ていました。
チラッと覗いた途端、目を疑いました。
ヒールを履いた
首がない女性らしき人影が見えたのです。
思わず声を上げそうになりましたが、
必死に堪えて様子を見ます。
ふとあることに気づきました。
その手には黒い何かが握られています。
それは非常口の光に照らされた瞬間に見えました。
なんと、男性の生首でした。
あまりの怖さと、
不気味さに心臓がバクバクなりながら
その場で“女性”が過ぎ去るのを待ちました。
そのヒールの音は
ゆっくりと遠くなって行くのが分かりました。
そして、聞こえなくなった瞬間に
急いで部屋に戻りました。
それから、
入院中は一度も部屋を出なかったと言います。
あのヒールの女、
そして手に握られた生首は
なんだったんでしょうか。
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