短編怪談 #92 「初めて霊を見た日」
これは霊感の強いゆーたろーくんが
初めて霊を見た日の出来事です。
地元に小さな本屋さんがあるのですが
そこのすぐ近くに交差点があるんですね。
当時19歳くらいのゆーたろーくんは
電車で仕事に行っていて
交差点は通勤ルートの一部でした。
ある日交差点で信号待ちをしていると
前から自転車を二人乗りした
男女がやってきたんです。
よく見るとその自転車は
何か様子がおかしい。
交差点に近づくにつれ
スピードが上がっているようでした。
そのままその自転車は赤信号、
しかも車が途切れる様子もないのに
突っ切る勢いで走り続けていました。
危ない！
そう思った瞬間でした。
自転車は道路に入る直前で勢いよく転び
なんとか最悪の事態は免れました。
その現場を見ていたゆーたろーくんは
すぐに駆け寄り、
「大丈夫ですか？」と手を差し伸べました。
男性は
「はい…大丈夫です。いってぇ…」
と言いながら起き上がりました。
そこであることに気づきました。
「あれ？女性の方は…？」
そうなんです。
二人乗りしてたので
転んだときに女性も倒れているはずなのですが
その姿がありません。
ところが男性は
「いや自分ひとりっすよ。」
と不思議そうに答えました。
当時、ゆーたろーくんは
霊体験をあまりしたことがなく
霊感の有無も曖昧な時期だったので
すぐには飲み込めず
何度も辺りを見回したそうですが
その女性はどこにもいませんでした。
幸い男性の怪我も軽く
すぐに自転車に乗り去って行きました。
ゆーたろーくんは、去り際に
「あの、気をつけて運転してくださいね。」
そう一言だけ伝えました。
交差点に向かって勢いが増していたことは
彼は無自覚そうだったので
何も言いませんでしたが
もしかすると、
ゆーたろーくんが見た後ろの女性が、
彼をあの世へ連れて行こうと
していたのかもしれません。
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