短編怪談 #119 「夢で見た廃墟」
これは、僕の後輩が体験したという
不気味なお話です。
その後輩は、
「心霊現象が起こる」という、
マニアの間ではちょっと有名な
喫茶店で働いています。
店内ではラップ音が鳴るなんてのは
日常茶飯事で、その他にも
肩を叩かれて振り返ると誰もいなかったり、
お客さんが1人もいない時間に
「すみませーん」という声が聞こえたりと
霊の仕業かな？と思わせる現象が
頻繁にあるそうです。
そんな彼がある日、
変わった夢を見たと言います。
その夢の内容とは
「どこかの廃墟で見知らぬ誰かと
談笑している夢」だそうです。
その見知らぬ誰かとは
親しげにしていたそうですが、
顔を思い出そうとしても
ぼやけた状態でしか
思い出せないのだそうです。
とはいえ夢の話なので
「そんなこともあるか」
ぐらいにしか思っていなかったようです。
夢を見てから
数日経った時のことでした。
後輩はいつものように働いていました。
「しかし今日は暇っすねぇ」
「まぁ平日だし仕方ないな」
そんな会話をしながら
ぼーっとしていると
ひとりのお客様がやって来ました。
「いらっしゃいませー」
後輩が案内に向かうと
そのお客様は無言で
席の方へ歩いて行きました。
その様子を見た後輩は
「変わった人だなぁ…」と
思っていたそうです。
そのお客様の見かけは、
ボロ切れのような服を着ていて
見えている肌の部分はどす黒く
穴の空いた靴を履いていて
かなり不気味な雰囲気を
漂わせていたと言います。
ただ、ひとつ
気になったことがあったらしく
それはそのお客様の髪の毛と髭でした。
そんな身なりをしているのにも関わらず
髪の毛はしっかり短髪で
髭も綺麗に剃っているようでした。
ますます変な人だなあと
思いながらも
後輩は注文を取りに行きました。
「失礼します、ご注文お決まりですか？」
「これとコーヒーを。
コーヒーは先にお願いします。」
後輩は、
お客様が思ったよりも
まともな返答をしたことに
少し驚きました。
人は見かけで判断したらいけないな
と少し反省し、
コーヒーを持って行くと
そのお客様はニコッと笑い
「ありがとう」
と言ってくれました。
少し気を良くした後輩は
ちょっとだけ話してみようと思い、
「お近くなんですか？」
と尋ねると
「うん、すぐ近くだよ
今はもう住んでないけどね」
と教えてくれました。
「なんだ、普通に良い人じゃないか」
と思った後輩は
キッチンに戻り、店長にもそのことを話すと
「なんであの身なりなのか聞いて来てよw」
とかなり失礼な冗談で流されたそうです。
それに少し腹を立てた後輩は
どうせ誰も来ないということで
そのお客様のところへ行って
しばらく話すことにしました。
お客様の席付近に来てすぐのことでした。
「わぁっ！！！」
突然、店内に店長の声が響きました。
驚いて振り返ると、
キッチンから煙が上がっていたそうです。
後輩は慌ててキッチンに行くと
店長が火元の近くにある消化器を取ろうと
もがいていました。
「店長ヤバいっすよ！
とりあえず逃げましょ！」
と叫び、なんとか店長を引っ張り出して
店の外まで走ったそうです。
外には既に野次馬が集まっていて
その中の誰かが通報してくれたらしく
数分もしないうちにサイレンが聞こえてきました。
すぐにパトカーと消防車、救急車が到着しました。
消防隊は消火にあたり、
救急隊員は店長を救急車に乗せた後、
後輩に対して色々と質問をしてきたと言います。
そしてその際に
「中にいた人はこれで全員ですか？」
と聞かれ、後輩は血の気が引きました。
「あ！あのお客様！」
後輩も気が動転していたせいか
さっきまで話していた
お客様をそのままにして
店長と店の外に飛び出てしまっていたのです。
あまりにショッキングな状況に、
震える声でそのことを伝えると
「後は我々が確認に向かいます。
体を休めていてください。」
と救急隊は優しく返事をしてくれました。
後輩の記憶はそこから
プツリと途切れてしまっているらしく
相当なショックだったんだと思います。
後で警察から聞いた話によると
店内にそのお客様と思われる
遺体等は見つからなかったと言います。
お店はというと、
全焼は何とか免れたそうですが
キッチンはボロボロになってしまったそうです。
火元はキッチンの食材の袋でした。
コンロの火が袋に引火し
瞬く間にあちらこちらへと
火が広がってしまったのだそうです。
火事から1週間後、
検査入院を終えた店長と
店の様子を見に行った際に
後輩はあることに気付きました。
店の中の景色が
いつかの夢で見た
あの廃墟そのものだったのです。
廃墟と思っていた場所が
まさか自分の仕事場なんて…
それに気付いた瞬間、
全てが繋がった気がしました。
夢で談笑していた見知らぬ人
その人こそ火事の日にやって来た
あのお客様だったのです。
後で聞いた店長の話によると
このお店があった場所は
以前にも飲食店があり
そのお店も火事になったと言います。
その時は全焼してしまい
中にいた店主ひとりが
焼死体として見つかったそうです。
その事故をきっかけに
心霊スポット扱いされるようになり
実際に怪奇現象が起きるようになったそうです。
あの日のお客様が以前の店主だったのか
今では確かめる術はありませんが
もしかすると、何かを伝えるために
お店にやってきていたのかもしれません。
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なにわの怪談師 れんれんです。
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