短編怪談#125「釣り中に」
これは、知り合いの
修作さん（仮名）から聞いた話です。
修作さんは数年前に友人と行った
釣りの際に奇妙な体験をしたらしいのです。
当時、二人は夜釣りにハマっていて
夜中の2時頃から釣りを開始するのが
日課になっていました。
その日も修作さんと友人のダー坊さんは
夜中の1時半頃に待ち合わせをしました。
「今日はどうする？」
「せっかくだから行ったことない方へ行こう」
そんな会話をした二人はその日、
ダー坊さんの車一台でいつも行く釣り場から
そう遠くないところにある
漁船が碇泊している港へと行くことにしました。
近くのコインパーキングに車を停め、
釣りが出来そうなポイントへと向かいます。
夜中の港はかなり静かで
大きな道路も近くにはないので
聞こえて来るのは風や波の音か
漁船がぶつかり合う
ゴツン…キーッという音ぐらいでした。
「ここなら静かに釣りができそうだな」
二人は明かりをつけて
準備を始めました。
すると、
「あっ！しまった！」
そのとき、修作さんは
忘れ物に気づいたらしく
車に戻ることにしました。
「悪いダー坊、忘れもんしたから車の鍵貸してくれ」
そう言ってダー坊さんから車の鍵を借りて
駐車場に忘れ物を取りに行きました。
鍵を閉め、釣り場に戻ったときでした。
「あれ？」
友人の姿がないのです。
コインパーキングから
釣り場まではほぼ一直線なので
道を間違えるはずもありませんでした。
「どこ行った…？おーい！ダー坊！」
いくら呼んでも
返事がありません。
まさか海に？
とも考えたそうですが
それにしては変でした。
二人で運んだ荷物がひとつも無いのです。
「おいおいふざけんなって、
ダー坊！もうそういうのいいから
出てこいよ！」
修作さんは
怒り気味で叫びましたが
どこからも人の気配がしませんでした。
ゴツン…キーッ チャポン…
船の揺れる音だけが響く港で
修作さんはひとり途方に暮れ
しばらく呆然としていたそうです。
「とりあえず、車に行くか…」
と駐車場に戻って落ち着く事にしました。
ダー坊の車のシートに座り込み
顔を伏せてあれこれ考え込んでいると
コンコンコンコン
コンコンコンコン
車の窓を叩く音が聞こえました。
一瞬、ビクッとしましたが
外を見て驚きました。
そこにいたのは、ダー坊でした。
修作さんは慌ててドアを開けると
「おい！どうした？体調悪いんか？」
とちょっと怒っているような
心配してくれているような
不思議なトーンで質問攻めをして来たそうです。
修作さんは、わけを説明しました。
「いや、すぐ戻ったけど
ダー坊、どこにもいなくてさ」
と言うと
「は？ずっとあそこにいたぞ？」
と返されたので見に行くと
確かに、すぐ移動するのは
難しいくらいに
道具をたくさん出していました。
最後はお互いに落ち着きを取り戻し
30分ほど釣りをしたそうですが
その日は一回も当たりが来ないまま
なんだかパッとしない雰囲気での
お開きとなったそうです。
あのとき、二人の間にあった
不思議な食い違いというか
すれ違いというか…
あれはなんだったのでしょうか。
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なにわの怪談師 れんれんです。
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